トリニティでの原爆実験、その後に続く広島、長崎への原爆投下から80年を迎える2025年。
日本国内外で活動する現代美術作家、キュレーターが中心となり、プロジェクト「爆心へ/To Hypocenter」が始まります。
The year 2025 marks the 80th anniversary of the nuclear test at Trinity Site and the U.S. atomic bombings in Hiroshima and Nagasaki. 
The collective of Japanese contemporary artists and curators launch the interdisciplinary project "爆心へ/Bakushin-he/To Hypocenter" to discuss lingering echoes of nuclear violence and the agency of memories and histories.






新井卓 Takashi Arai

(アーティスト)

「爆心地の話をつたえてくれる人は、誰もいません」丸木位里・俊『ピカドン』

爆心には誰もいない。彼女/彼らはみな死んでしまった。誰もいない爆心は日ごと膨張し沈黙するわたしたちを侵食する。届かない光を照らし歩いていく──ヒトとヒトならざるものたちの、声と記憶の爆心へ。


1978年川崎市生まれ、ベルリン在住アーティスト。
最初期の写真術ダゲレオタイプ(銀板写真)を独自に習得、対象に出会ったときの感覚を時間と空間を超えて伝える〈極小のモニュメント〉として自身のメディアとする。近年は映画制作、執筆、共同研究ほか学際的活動を行う。2016年第41回木村伊兵衛写真賞、2018年第72回サレルノ国際映画祭短編映画部門最高賞はじめ賞歴多数。単著に『百の太陽/百の鏡──写真と記憶の汀』(岩波書店、2023年)、『MONUMENTS』(PGI、2015年)、『ドイツ 丘の上の小さなハカセ クラース (世界のともだち)』(偕成社, 2015年)がある。

http://takashiarai.com





川久保ジョイ Yoi Kawakubo 
(アーティスト) 

近づけば近づくほど捉えられなくなり、背を向け、距離を置こうとすればするほど迫ってくる「場所」。爆心はそういったことなのかも知れない。
宮崎駿の原作漫画『風の谷のナウシカ』の中に登場する、汚染された「腐海」の森の中心部にあるとされる伝説の「蒼き清浄の地」では、空気は清すぎてマスクなくして人間はその空気を吸うことはできない。呼吸すれば瞬く間に肺から血を吐き死んでしまうという。
そうした場所は思いも寄らぬ所にあるのかも知れない。


1979年スペイン・トレド市生まれ。2003年筑波大学人間学部心身障害学卒業。専業主夫、金融トレーダーを経て、原子力問題や資本主義経済、認識論をテーマに写真、映像、サウンド、空間インスタレーションを制作する。グループ展に「コレクション2024-Ⅲ」(広島市現代美術館、2024)、「Picturing the Invisible」(王立地理院、ロンドン、2022)「ヨコハマ・トリエンナーレ2020」(横浜、2020)などが、個展に「Left is Right〜45億年の庭と茹でガエル〜」(丸木美術館、2024)、「Fall」(資生堂ギャラリー、東京、2016)などがある。2015年VOCA展大原美術館賞、第10回shiseido art egg入選等の受賞がある。

https://www.yoikawakubo.com




小林エリカ Erika Kobayashi

(作家/アーティスト)

八〇年前のあの日、アメリカ、ニューメキシコ州、トリニティ・サイトで、続いて、日本、広島と長崎の街で、太陽よりもなお眩しい光の中にあった、その爆心へ、いま、この手を伸ばしてみようとすること。



1978年東京生まれ。目に見えない物、時間や歴史、家族や記憶、場所の痕跡から着想を得た作品を手掛ける。
著書は小説『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)で第78回毎日出版文化賞受賞。『トリニティ・トリニティ・トリニティ』英語版 「Trinity, Trinity, Trinity」翻訳Brian Bergstrom(AstraHouse刊)は日米友好基金日本文学翻訳賞2022-2023受賞。『マダム・キュリーと朝食を』他多数。コミックに、”放射能”の歴史を辿る『光の子ども1~3』(リトルモア)英語版「SEEING THE LIGHT」は自ら立ち上げたインディペンデントな出版社arbaro booksより翻訳Winifred BirdデザインBrennan Kellyでリリース。
インスタレーション作品も国内外で発表し、主な展覧会は「りんご前線 ― Hirosaki Encounters」(弘前れんが倉庫美術館)、「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」(国立新美術館)他。

http://erikakobayashi.com



竹田信平 Shinpei Takeda

(アーティスト)

世界のバイオレンスに背中を押され、連鎖反応を逆に辿り、大量虐殺の現場へ。 その爆心の核への道のりを綴り、その詩を喉を通して一緒に叫ぶ



1978年大阪生まれ、現在ドイツ・デュッセルドルフとメキシコ・ティファナを拠点に活動。歴史と場所の間に汲み取られてこなかった声や記憶をどのように紡いでいくかということを様々な媒体と方法で展開。ドイツでは2017年より、アンチモニュメントe.V.という非営利団体を創始、ナチス時代の彫刻をバーチャルリアリテーで破壊するというゲームを制作。アメリカでは2001年より、The AjA Projectという非営利団体を創始、難民の若者とメディアプロジェクトを展開。また原爆のテーマについては2000年代初めから取り組み、これまでに100人以上、北米・南米大陸に移住した被爆者を尋ね、収録してきた。関連映像作品に『ヒロシマ・ナガサキダウンロード』(73分、2010年)、『ヒロシマ・ナガサキダウンロード』(73分、2010年)著書には『アンチモニュメント・リサーチ』(自費出版、2023年)、『α崩壊:原爆の記憶を現代アートはどう表現しうるか』(現代書館、2014年)、『海を超えたヒロシマ・ナガサキ”』(ゆるり書房, 2013年)等がある。

http://www.shinpeitakeda.com




三上真理子 Mariko Mikami

(キュレーター/アートプロジェクトマネージャー)

圧倒的な加害/被害の歴史についてまわる、大きな主語が見えなくしている声に振り向けるように、過去そして未来の他者への想像力を耕すために、アウトサイダーの視点からそれぞれの「爆心」を語り、共に学ぶ。



東京大学総合文化研究科超域文化科学科にて比較文学・比較文化を学んだのち、学術研究支援の職務経験を経て、現在は、現代視覚文化を中心とした分野横断型プロジェクトのプロデュース、マネジメント、キュレーションを、東京とデュッセルドルフを拠点に手がける。異文化への憧憬や衝突を背景に生まれる「あいだ」の表現や、近現代の日本文化の国外での表象や受容に関心を寄せる。

 近年の活動に、キュレーターとして「ミン・ウォン:偽娘恥辱︎㊙部屋」展(ASAKUSA、東京、2019)、「Resonances of DiStances」(BOA/Kunstverein Leverkusen、デュッセルドルフ/レバークーゼン、2021)、「オモシロガラ」展(DKM美術館、デュイスブルク、2021)、ハイドルン・ホルツファイント「こんな今だから。」および「Kからの手紙」(ASAKUSA、東京、2022および2023)、「メタヘイブン:嵐を抱えて」(ASAKUSA、東京、2023)、プロジェクトマネジャーとして「ボリス・グロイス日本招聘プロジェクト」(東京国立近代美術館他、2017)、「泉太郎:ex」展(ティンゲリー美術館、バーゼル、2020)、プロデューサーとして「アントン・ヴィドクル「宇宙市民」制作プロジェクト」(東京・ニューヨーク・キーウ、2018)、「ミン・ウォン:Rhapsody in Yellow」(steirischer herbst、グラーツ、 2022)など。

https://lit.link/marikomikami